大分から母がやって来ました

我が子には、祖母が二人いる。
初めて「おばあちゃん」になった二人だ。
そのうちの残る一人、私の母が大分から張り切ってやってきた。
朝8時大分空港発の便でやってきたので、気合の入りようたるや、なかなかのものだ。
大分空港をご存知の方ならおわかりになるだろう。市街地から遠いのだ。
8時の便に乗ろうとすると、大分市内に住む人間は、鶏よりも早く起きなければならない。
当然にしてかなり眠いはずなのだが、伊丹空港に現れた母は、目を輝かせ、元気一杯だった。
迎えに来てくれた義母の運転する車の中で、義母と母の「おばあちゃんs」の会話が弾む。
「おじいちゃん達に見せてあげたかった。」という話題でしんみりする以外は、ハイテンションである。
30分ほどで病院に着いたが、土日祝日の面会時間は11時〜19時。
遠方からの面会はこの限りではないという但し書きはあるが、もう、1時間と少しで11時なので、お茶でもして待つことにした。
あまり変な時間に行って、カミさんが肩身の狭い思いをすると可哀想だからだ。
さて、11時。
「おばあちゃんs」に先駆けて、私がカミさんの病室へ。
病室に入れるのは、パパだけなので、カミさんと赤ん坊をガラスで仕切られた入口まで呼ばなくてはならないのだ。
大分からやって来ても、母は今日、孫を抱けない。可哀想だがルールなのだ。予めそのことは説明の上だが、それでも母は大分からやって来た。やはり、一刻も早く見たかったらしい。
カミさんとウチの子が、ガラスのところまでやってくる。一昨日も昨日も会っているはずの義母までが、母と同様に色めきたつ。
「おばあちゃんs」大はしゃぎである。
・・・しかし、寝ていた。ウチの子は、寝まくりである。
ああ、しかし、寝ていても、「かわいい、かわいい。」と一向にテンションが下がらない「おばあちゃんs」、この二人、只者ではない(笑)。
母の携帯で写真を撮ってやった。余談だが、母はカメラ付き携帯を持ちながら、写真を撮る術を持たない。母の携帯に唯一入っている写真は、2003年の12月、私が撮影してやった父と母とのツーショット一枚のみである。
待ち受け画面に設定してあげたその写真を「パパの写真」と大事にする母。今は亡き父の写真が入ったこの携帯は、母の宝物なのである。
ところで、残念ながらウチの子は一向に起きる気配もなく、また、「おばあちゃんs」にはすやすやと寝ている孫を無理やり起こす意思もなかったので、一旦退却。昼食を取ることにした。
義母は、近くの和食の店に連れて行こうとしていたが、あえて、「江戸川」にしてもらった。義母にしてみれば「お好み焼き」なんて娘の姑を連れて行くところではないと思っていたに違いないが、大分の人間には、むしろ関西らしい食べ物がもてなしになるのだ。大分は山海の恵み豊かな、誇るべき食材の宝庫であるが、「江戸川」クラスのお好み焼きを食べさせる店なんてない。母は、こういう店のほうが喜ぶに相違ないのだ。結論として、正解。母は喜び、喜ぶ母を見て義母も満足そうだった。
閑話休題。食事中に一通のメールが入っていた。カミさんから「今なら、起きてる。」という趣旨だった。
食事が終わるや、病院に取って返す我々。
義母は、なんとしても母に起きている孫を見せてやりたいと思っているようだ。優しい義母なのだ。
私が病室に入ると、カミさんが「間に合ったー。」と一言。
ベビーベッドの中で、我が子はパカッと目を見開き、キョロキョロしている。
でかした!さぁ、「おばあちゃんs」を喜ばせてやってくれ!
ガラスのところまでやってくると、我が子はとても親孝行、いや、婆孝行だった
。ガラス越しに顔を近づける「おばあちゃんs」にたっぷりと愛嬌をふりまく。初めて見る「大分のおばあちゃん」の方を大きく目を見開いて眺めやる。
このとき、私は「こいつ、もう、知恵があるんじゃないか?」という錯覚に捕われた程である。
そして、私は起きている孫の写真も母の携帯で撮影してやったのである。
撮り方のみならず、撮影した写真の見方もわからなかった母だが、この面会終了後、私の説明を熱心に聞きマスター。一応やり方を記した紙も添えてあげたものの、たぶん、必要はあるまい。
さて、何気に忙しい母は、義母と私に見送られ、15時には伊丹空港にいた。
最終便を予約していたのだが、もう、十分に目的を果たせたと便を繰り上げて帰ることにしたのだ。
週3日の卓球、自然公園での毎日の散歩といった趣味に加え、地域の活動にも積極的に参加し仕切る母は、結構みんなの人気者。書店を経営していた頃は、学生たちに慕われる名物おばちゃんでもあった。
「私も、なかなかに忙しくてねぇ。」と微笑む母が両手で大事そうに携帯を抱えているのを見た私は、繰り上げて帰る母の真意を推察していた。
用事があるのは、明日なのだ。今日は、全てキャンセルしていたはずなのだ。
読めない時間に予定を入れ、約束をする人ではないのだから。
一つには、朝早く起きて流石に疲れているせいもあるだろう、孫の姿を堪能したからには、早く帰って休みたいのは道理だ。
しかし、両手で、正に宝物のように抱えている携帯、これが示しているのは、「兄さん、姉さんに(私にとって伯父、伯母)この写真を見せてやりたい。」ということなのだ、絶対そうだ、この人の息子をやって30年余、まず、私の読みに間違いない。
母は、6人兄弟の末っ子。一番年の近い姉とその夫である義理の兄が、車で10分ぐらいのところに住んでいる。この、私にとっての伯父と伯母は、小さい頃から私を殊のほか可愛がってくれた。伯父と伯母の娘である従姉も、まるで実の弟のように扱ってくれていた。
見せてあげたいのだ、今日のうちに。この二人に。
可愛がってくれたこの子に、赤ちゃんができたと。しかも、こんなに可愛い赤ちゃんが・・・と。
後刻、母から無事に着いたという連絡と、「これから、○○○姉ちゃん(件の伯母のこと)のところ行って来る。」という一言が。・・・母さん、分かり易すぎます(笑)。でも、好きです、あなたのそういうところ。